はじめに
先日「日焼け止め嫌いが選んだ臭くない日焼け止め」に関する記事を投稿しました。
もちろん臭くない日焼け止めを見つけることができて満足と言えば満足なのですが、これでも化学系の大学院生の端くれですので、臭いのメカニズムを知らずにはいられませんでした。(メカニズムを知ることは商品選びにも貢献しています)
というわけで、日焼け止めを構成する成分と臭いの原因について書き連ねていきます。
日焼け止めの成分
まず、日焼け止めの成分は「紫外線散乱剤」「紫外線吸収剤」の二種類に分けられます。どちらも入っているパターンもあれば、どちらか一方の場合もあります。それぞれの特徴は以下の通りです。
紫外線吸収剤
主に有機化合物です。紫外領域に吸収波長があり、紫外線を吸収して励起状態になった後、蛍光を示さず熱エネルギーを放出(無放射遷移)しながら基底状態に戻る性質のある化合物を使用しています。
実はこの紫外線吸収剤に適切な化合物の条件は「紫外領域に吸収波長があること」だけではありません。もう一つの重要なファクターは「項間交差を起こさない(励起一重項状態から励起三重項状態にならない)」ことです。その理由は励起一重項状態の寿命に対し、励起三重項状態の寿命が長いことに起因します。寿命が長いということは基底状態に戻る前に別の化合物と反応する可能性が高まってしまうのです。具体的には、励起三重項状態の成分が基底状態で三重項である酸素原子と反応することで、酸化力の高い一重項酸素が発生し、様々な化学反応を引き起こすことで人体に害を与える可能性があります。
紫外線吸収剤にて重要な役割を果たす励起一重項状態の有機物は寿命が短く、項間交差も起こしにくいため、皮脂などと反応する可能性は低く、これが臭いの原因になっている可能性はほぼないと思われます。
紫外線散乱剤
主に無機化合物。酸化チタン、酸化亜鉛が主流ですが、酸化セリウムなども効果が確認されています。こちらは物理的に紫外線を散乱する作用があります。
臭いの原因は何か?
臭いの原因は紫外線散乱剤の酸化チタンです。酸化チタンには、紫外線を散乱させる作用に加え、紫外線によって光触媒となり、共存分子を酸化還元する性質があります。日焼け止め中の酸化チタンにおいては、主に還元剤としての作用が問題となります。酸化チタンが空気中の酸素を還元することで強力な酸化剤である酸素ラジカル(スーパーオキサイド)を発生させてしまい、続いて皮脂などが酸化されます。この酸化された皮脂があの独特な「日焼け止め臭」の原因なのです。
「臭くない日焼け止め3選」の記事にも書きましたが、酸化チタンが含まれているからといって必ずしも日焼け止め臭がするわけではありません。というのも、酸化チタンの微粒子化技術が発展し、この光触媒作用を抑制することができているものもあるからです。(紹介したロート製薬の「スキンアクア」シリーズはまさにこの例)
臭い発生のメカニズムから考える日焼け止め選びの指針
上述の通り、酸化チタンが含まれているからと言って必ずしも臭い日焼け止めであるとは限りません。ただ、酸化チタンが含まれているものを避ければこの臭いがしないのは確実なので、怖い方は成分表示をしっかり見て購入するのが良いと思います。しかし、どうやら日本人は紫外線吸収剤を避け、紫外線散乱剤を選ぶ傾向にあるようなので、世の中に出回っている日焼け止めで酸化チタンが含まれていないものを探すのは少し難しいかもしれません…(紫外線吸収剤不使用をうたう製品は多いのに対し、紫外線散乱剤不使用の製品はあまり見かけませんよね)
私自身、しばらくはブログに書いた商品を使って生きていこうと思うのですが、商品がリニューアルしたり廃番になったりしてしまう危険性もあるほか、下地やファンデーションにも同じことが言えると思うので、この「臭い原理」を念頭に置いた化粧品選びを継続しようと思います。
Appendix
紫外線散乱剤として使われる酸化チタンや酸化亜鉛は可視光を散乱するため、白いです(多くの日焼け止めが白っぽい理由です)。そのため、肌を色白に見せてくれる効果はあるのですが、「美白化粧品」とうたっている商品にもこの酸化亜鉛や酸化チタンが多く含まれていることがあります。実際の肌の色が白くなっているのではなく、これらの物質を塗布することによって一時的に白く見えているだけ…ということも多いので、美白化粧品を選ぶときも気を付けてみると良いかもしれません。